税制は私たちを映しだす鏡

『税制改革の渦中にあって』石弘光(岩波書店、2008年)

 ベンジャミン・フランクリンが、” In this world nothing can be said to be certain , except death and taxes. “ と言うように、税は私たちに最も身近なものである。また、国や社会の在り方の根幹をなすものが税制である。

 二十一世紀に相応しい税制を構築していくためにどのような課題に取り組むべきなのか、私たち一人ひとりが考えていくことが求められている。そのとき、我が国経済社会の「実像」をしっかりと見据えることが何よりも重要であろう。

 この点に関し2004年の税制調査会において「10のキーファクト」を挙げ、私たちが直面する構造変化の実像を明らかにしている(基礎問題委員会報告『わが国社会の構造変化の「実像」について』同年6月)。

 すなわち、1)人口減少社会・超高齢化社会、2)右肩上がり経済の終焉、3)家族のかたちの多様化、4)日本型雇用慣行のゆらぎと働き方の多様化、5)価値観・ライフスタイルの多様化・多重化、6)社会や公共に対する意識、7)分配面での変化の兆し、8)環境負荷の増大・多様化、9)グローバル化の進展、10)深刻化する財政状況、である。

 大事な点は、過去の残像あるいは虚像ではなく、こうした実像を直視して取り組んでいくということに他ならない。

 本書は、2000年6月から2006年6月までの丸六年間、政府税制調査会の会長職にあった石弘光一橋大学名誉教授によるものである。上記の検討・報告も含め、税制改革の「渦中」に身を置かれた著者からは、これからの税の在り方を考えていくに当たって、多くの有益な示唆が与えられる。その前半部分では、これまでの論議ではあまり採り上げられなかったテーマ(増税時代へのパラダイムの転換、マスコミ報道など)につき興味深い視点が提供されている。また、後半部分では、所得税・消費税・法人税といった主要な税目の現状や問題点に触れられている。

 税は社会的インフラストラクチャ―の一つであり、経済社会構造を基礎として構築されるものであれば、私たちを映しだす「鏡」でもある。今まさに著者が言われる「将来真に必要なものを見抜く眼力」をもって、実像をきちんと踏まえ、税制改革論議を実りあるものにしていかなければならない。こうした観点から、同じ著者による『現代税制改革史-終戦からバブル崩壊まで-』(東洋経済新報社、2008年)をも併せ読まれることをお勧めする。


関岡 誠一 (経済学研究科 教授)

専門分野:法人税法
関心テーマ:税制