『IBM:お客様の成功に全力を尽くす経営』北城恪太郎、大歳卓麻編著、ダイヤモンド社、2006年
読者のみなさんは、IBMという会社をご存知でしょうか。おそらく大部分の人は、コンピュータを製造する会社と思っていることでしょう。ところが、現在のIBMはサービスを売る会社に変貌しています。2006年度の売上高でみるとサービス(480億ドル)、ハードウエア(220億ドル)、ソフトウエア(180億ドル)となっています。
20世紀初頭に計量秤、時計、タイプライター等を作る会社として出発したIBMは、1956年父から経営を引継いだトーマス・ワトソン・ジュニアがデジタル・コンピュータ制作に挑戦し世界市場を制覇しました。しかし、1980年代後半のコンピュータ産業における構造変化の方向を見誤ったIBMは、90年代はじめ倒産の危機に直面しました。最高経営責任者として外部から乗り込んだルイス・ガースナー(1993年-2002年)は、社員の意識改革を進めると同時に、顧客がかかえている有形無形の課題を解決するサービスの提供を商売の中核とすることで、経営危機を克服しました。そして、再び世界の優良企業に返り咲きました。IBMの経営改革はまさにイノベーション(抜本的革新)といえるものです。
本書は、再生に成功したIBMがどのような考えに基づいてビジネスを展開しているかを述べています。それは、本書のタイトルが端的に示すように、お客様の立場にたって、お客様の成功に全力を尽くす経営にほかなりません。日本IBM会長北城恪太郎氏は、本書で「ハードウエアー・ビジネスからソリューション・ビジネスへの変革の最中にある日本IBMもイノベーションの継続という意味では、今後サービス業としてのイノベーションに果敢に取り組んでゆかねばなりません。」と力説しています。変化のスピードが速く、グローバル化した経済環境の中で私たちが生きてゆくために、本書はたいへん示唆にとんだ本です。ぜひお勧めします。あわせて、ガースナーの自伝的著書『巨象も踊る』(日本経済新聞者、2002年)もとても面白い本です。
近年、先進国ではサービス産業の重要性がたいへん高まっています。例えば、日本ではサービス産業のGDPは国全体のGDPの70%を占めています。日本の製造業の生産性は非常に高いのですが、残念ながら、サービス産業の生産性はアメリカと比べてかなり見劣りします。日本が世界経済の中で競争に打勝つには、サービス産業生産性を向上することがぜひ必要です。経済学研究科は、文部科学省から「サービス・イノベーション人材育成プログラム」を受託し、2007年10月より「サービス・イノベーション・マネジャー人材育成プログラム」を開始しました。サービス部門において新たな生産性を創造し、サービスの質を管理できる人材を育てるのが目標です。
経営学者ドラッカーは、「あらゆる活動にリスクがともなう。だが、昨日を守ること、すなわちイノベーションを行わないことのほうが、明日をつくることよりも大きなリスクを伴う。」と述べています。企業はイノベーションを起こし、変化し続けなければ生き残れません。このことはおそらく営利企業にかぎらず、あらゆる組織に当てはまるのではないでしょうか。
佃 良彦 (経済学研究科教授)
専門分野:統計学、計量経済学
関心テーマ:サービス・サイエンス、金融計量経済学、東アジアの経済発展